まず日本の新聞に「パリ症候群」の記事が出ており、その後、
インターネットでリベラシオンの仏語記事を見つけて、読んでみました。

まず最初の感想は、「25年経過しても人間の心はそんなに変わらないな」          というものです。私がパリに滞在していた80年代の前半にも、フランス

社会や生活になかなか溶け込めず、それでも帰国しようとしない日本人
に多く出会いました。でも、現在はワーキングホリディビザもあるし、

当時よりパリ滞在者が格段に多いので、「症候群」と名付けられる
ほど目立つようになったのでしょうか。

 外国で暮らすということは、異なる文化の中で生活するという
ことです。ですから自分の価値観や規範に固執すると苦しくなります。

何も自らの価値観を放棄する必要はありませんが、彼らは自分とは
異なる価値観で生活しており、同時に普遍的な価値観もあるんだ、

ということを理解することが大切です。中には自らの価値観や規範を
放棄して、フランス人以上にフランス人になろうとしている在仏の

日本人もいますが、不自然で違和感があります。そういう人は、
かぶれ者で、当のフランス人にも尊敬されません。

 リベラシオン紙の記事にもありましたが、フランス人の個人主義を
理解することが大切だと思います。これは日本で誤解されている

自分中心の利己主義とは全く違いますが、個を尊重するという意味
での個人主義であり、社会はあくまでもその独立した個人同士の

契約により成り立っているという考えです。ですからフランス社会は、
個人の甘えが許されない大人の社会でもあるのです。例えば、酔っ払いに

寛容な日本社会とは異なり、一人前の大人が人前で酔っ払うことは許
されません。まだ一人前の大人として成熟していないとみなされるか、

社会的に脱落した人間とみなされます。或る意味では、個人にとっては
厳しい孤独な社会でもあるのです。ですから、我々日本人から見たら、

そこまでと思うぐらい、自己を主張します。その彼らの自己主張を、
自分個人に向けられたものとして受け取ると、フランスに住む日本人

としては苦しくなります。そうではなく、これまで自分が慣れ親しん
できた文化とは異なるけど、このような独立した個人を基本にした

文化もあるんだ。この文化では積極的に自己を主張しなければならない
から疲れるけど、自分が憧れた美術や歴史、料理、建築、ファッション、

そしてパリの街並みもこの文化が作ってきたんだ。だから、自分を変える
必要はないけど、自分も上手に主張するところは主張し、柔軟にこの

フランス社会に適応していこうという姿勢が取れると、フランス社会の
良さも悪さも両方、客観的に見ることができ、気持ちの余裕も生まれる

と思います。そのためにも、外国暮らしをする前の日本での生き方が
重要になります。特に人生経験の浅い若い日本人は、憧れだけを持って

パリに渡ると、幻滅を味わい、思い描いた理想のパリ生活と現実の
ギャップに苦しみ、記事で述べているような精神的病に陥ってしまいます。

 国際社会と簡単に言いますが、外国で生きていくには、異なった環境に
対応できる思考の柔軟性とそれなりの精神的タフさを必要とします。

苦労するのは当たり前ぐらいの気持ちと、人間関係でも物でも何でも
良いですが、自分にとっての楽しみを持つことです。

パリのような都会でフランス人の友人を作ることは、フランス人にとって
さえ簡単なことではありません。地方出身のフランス人も、パリの人は

冷たいと言っています。友人なしに都会で生きていくことは辛いことです。
それなら良い方法があります。国際都市パリには多くの外国人が住んでいます。

彼らも孤独です。外国人の素晴らしい友人を、パリで作ることは、
フランス人の友人をパリで作るよりも多くのチャンスがあります。

異国に住む外国人同士として、同じ悩みや問題を共有することもできます。
パリ生活の最初の数ヶ月が大切ですから、言葉も不自由なその時期に、

パリに住む外国人の友人を作り、その後時間をかけて、少しずつ
フランス社会に溶け込んでいったら良いと思います。そのうちフランス語も

通じるようになり、フランス人の友人もできます。フランス人を含めた
様々な国籍の友人を持つ素敵な生活を、パリで過ごす。なんて素敵なこと

でしょう。憧れる心はエネルギーを生む素敵な心です。でも固執する気持ちは
その心を蝕んでいきます。どうぞ柔らかい心を持って、素敵なものに憧れて

ください。自分がその憧憬の対象に一歩でも近づくように、自己を高めたいと
願ったのはその心は真実なのです。